法律コラム
「下請法」が、2026年1月1日から「取適法」に変わります
2025年12月16日
2026年1月1日に、「下請法(下請代金支払遅延等防止法)」の改正法が施行され、「取適法(製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律)」となります。
1 改正の背景、概要
近年の急激な労務費、原材料費等のコストの上昇を受け、発注者・受注者の対等な関係に基づき、サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を定着させる「構造的な価格転嫁」の実現を図っていくことが重要とされています。
このため、多段階の取引当事者が連携した取組等を支援し、価格転嫁・取引適正化を徹底していくために、下請法及び下請振興法の改正が行われ、下請法では、協議を適切に行わない代金額の決定の禁止、手形による代金の支払等の禁止、規制の対象となる取引への運送委託の追加等が行われました。
2 取適法が適用される取引
(1) 改正概要
① 取適法が適用される取引は、事業者の資本金の規模と、取引内容によって決まっていましたが、今回の改正で、新たに従業員基準も追加されました。
② 発注主から元請運送事業者への委託は、下請法の対象外(独禁法の物流特殊指定で対応)であったところ(元請運送事業者から下請運送事業者への再委託は下請法の対象)、発注主から元請運送事業者への委託も取適法の対象とすることになりました。
③ 製造委託の対象物品のうち、物品の製造に用いる金型に関連して、金型だけではなく、木型、治具なども追加されました。
(2) 適用対象取引
① 製造委託・修理委託・特定運送委託、情報成果物作成委託・役務提供委託(プログラム作成、運送、物品の倉庫における保管、情報処理に限る)
| 委託事業者 | 中小受託事業者 |
|---|---|
| 資本金3億円超 ⇒ | 資本金3億円以下(個人含む) |
| 資本金1千万円超3億円以下 ⇒ | 資本金1千万円以下(個人含む) |
| 従業員300人超 ⇒ | 従業員300人以下 |
② 情報成果物作成委託・役務提供委託(①を除く)
| 委託事業者 | 中小受託事業者 |
|---|---|
| 資本金5千万円超 ⇒ | 資本金5千万円以下(個人含む) |
| 資本金1千万円超5千万円以下 ⇒ | 資本金1千万円以下(個人含む) |
| 従業員100人超 ⇒ | 従業員100人以下 |
3 委託事業者の義務
(1) 改正の概要
① 書面交付義務について、中小受託事業者の承諾の有無にかかわらず、電子メールなどの電磁的方法による提供が認められます。
② 遅延利息の対象に、支払遅延だけではなく、減額も追加されました。
(2) 義務項目
① 発注内容等を明示する義務(第4条)
発注に当たって発注内容(給付の内容、代金の額、支払期日、支払方法)等を書面又は電子メールなどの電磁的方法により明示すること
② 書類等を作成・保存する義務
取引が完了した場合、給付内容、代金の額など、取引に関する記録を書類又は電磁的記録として作成し、2年間保存すること(第7条)
③ 支払期日を定める義務
検査をするかどうかを問わず、発注した物品等を 受領した日から起算して 60 日以内のできる限り短い期間内で支払期日を定めること(第3条)
④ 遅延利息を支払う義務
支払遅延や減額等を行った場合、遅延した日数や減じた額に応じ、遅延利息(年率14.6%を支払うこと(第6条)
4 委託事業者の禁止行為(第5条)
(1) 改正概要
① 中小受託事業者との協議に応じず、また、中小受託事業者の求めた事項について必要な説明もしくは情報の提供をせず、一方的に代金を決定することが禁止されました。
② 手形払が禁止されるとともに、その他の支払手段として電子記録債権等についても、支払期日までに代金相当額満額を得ることが困難なものが禁止されました。
(2) 禁止項目
① 受領拒否・・・中小受託事業者に責任がないのに、発注した物品等の受領を拒否すること(1項1号)
② 支払遅延・・・支払期日までに代金を支払わないこと(支払手段として手形払等を用いること)(1項2号)
③ 減額・・・中小受託事業者に責任がないのに、発注時に決定した代金を発注後に減額すること(1項3号)
④ 返品・・・中小受託事業者に責任がないのに、発注した物品等を受領後に返品すること(1項4号)
⑤ 買いたたき・・・発注する物品・役務等に通常支払われる対価に比べ著しく低い代金を不当に定めること(1項5号)
⑥ 購入・利用強制・・・正当な理由がある場合等を除いて自己の指定する物を強制購入させ、役務を強制して利用させること(1項6号)
⑦ 報復措置・・・取適法違反の事実を公正取引委員会等に知らせたことを理由として、不利益な取扱いをすること(1項7号)
⑧ 有償支給原材料等の対価の早期決済・・・有償で支給した原材料等の対価を、当該原材料等を用いる給付に対する代金の支払期日より早い支払期日の代金と相殺したり、先に支払わせたりすること(2項1号)
⑨ 不当な経済上の利益の提供要請・・・自己のために中小受託事業者から金銭、労務の提供等をさせること(2項2号)
⑩ 不当な給付内容の変更、不当なやり直し・・・中小受託事業者に責任がないにもかかわらず、発注の取消しや発注内容の変更を行ったり、無償でやり直しや追加作業をさせること(2項3号)
⑪ 協議に応じない一方的な代金決定・・・中小受託事業者から価格協議の求めがあったにもかかわらず、協議に応じなかったり、必要な説明を行わなかったりするなど 、 一方的に代金を決定すること(2項4号)
5 その他の改正
事業所管省庁には、これまで調査権限のみ与えられていましたが、公正取引委員会、中小企業庁、事業所管省庁の連携した執行をより拡充する必要があるため、事業所管省庁においても指導及び助言ができるようになりました。
また、報復措置の禁止に係る情報提供先にも事業所管省庁が追加されました。