法律コラム

運送契約法に関する改正について

2022年7月26日

 2018年(平成30年)の商法改正は、運送分野において、120年ぶりの改正となりました。
 運送契約とは何かという基本的な観点から、改正の概要を記載したいと思います。

第一 運送契約

一 運送契約とは

 運送契約は、運送人が、人または物品を場所から場所へ移動させるという仕事の完成を約す請負契約(民法632条)の一種とされています。

二 運送契約における約款利用

 商法の運送人の規定は任意規定であり、契約による変更は自由とされています。
 しかし、運送契約において、大量の契約を定型的に締結する必要があるため、普通取引約款が利用されることが多くあります。
 例えば貨物自動車運送事業法10条1項は、一般貨物運送事業者は、運送約款を定め、国土交通大臣の許可を受けなければならないところ、国土交通省が告示する標準約款と同一の運送約款を定めたときは、この認可を受けたものとみなすと規定しています。よって、トラック運送や、宅配運送においては、国土交通省が告示する標準約款を利用していることが多いといえます。そして、この標準約款は、商法の規定と共通しています。
 また、運送契約が消費者との間で行われる場合、運送業者が独自の約款を定めた場合でも、消費者契約法10条により、商法の任意規定よりも、消費者の利益を一方的に害する場合には、無効になる場合があります。

第二 物品運送契約

一 運送人の責任

1 定額賠償制度(商法576条)

(1)運送品の滅失・損傷の場合
 運送品が滅失、損傷した場合、損害賠償額は、引渡し地及び引渡し時における運送品の市場価格によって定め、市場価格がない場合には、その地及び時における同種類で同一の品質の物品の正常価格によって定めます(商法576条1項)。

(2)運送品の延着の場合
 運送品が「延着」した場合、損害賠償額の規定は商法に規定されておらず、民法416条の定める損害賠償の一般原則によることとなります。
 (1)の通り、運送品の「滅失・損傷」の場合には賠償額が限定されますが、「延着」の場合には多大の責任を負うリスクがあることになります(一般に損害保険では延着は免責とされています。)。
 もっとも、標準約款47条5項は、運送品の延着における損害賠償額は、運賃・料金等の総額を限度としており、リスクが回避されています。

(3)運送人に故意又は重過失がある場合
 (1)(2)の運送人の損害賠償額の定額化ですが、運送人の故意又は重過失の場合には適用されません(商法576条3項、標準約款48条)。

2 高価品の特則

(1)高価品は、運送委託時に、荷送人が種類及び価格を通知しない限り、運送人は、滅失、損傷、延着について責任を負いません(商法577条1項)。

(2)しかし、(1)の除外規定として、①運送人が運送契約締結時に高価品であることを知っていたとき、②運送人に故意又は重過失があるときには、荷送人が高価品であることの通知をしていない場合でも、運送人は賠償責任を負います(法577条2項)。

3 運送人の責任消滅事由

(1)運送品の損傷又は一部滅失について、荷受人が異議を述べずに受領したときは、運送人の責任は消滅します(商法584条1項本文)。

(2)しかし、直ちに発見できない運送品の損傷又は一部滅失の場合には、引渡しの日から2週間以内に運送人に通知を発したときは、(1)の適用がないとされています(商法584条1項但し書)。

(3)また(1)(2)の規定は、運送人が、運送品の引渡し時に、運送品の損傷又は一部滅失を知っていたときは適用されません(商法584条2項)。

(4)運送人が下請けに出した場合に、荷受人から(2)の通知を元請人が受けた場合、下請運送人の元請運送人に対する責任期間は、当該通知を受けた日から2週間後まで延長されます(商法584条3項)。

4 除斥期間等

(1)運送品の引渡し日、(全部滅失の場合は引渡しがされるべき日)から1年以内に裁判上の請求がされないときは消滅します(商法585条1項)。

(2)(1)について、運送品の滅失等による損害が発生した後に限り、合意により延長できます(商法585条2項)。

(3)運送人が下請けに出した場合、元請人が(1)の請求を受けた場合、下請人の(1)の責任期間は、運送人の損害賠償又は裁判上の請求をされた日から3か月を経過する日まで延長されます(商法585条3項)。
※  改正前商法は、運送品の滅失等による運送人の責任は、荷受人が運送品を受け取った日等から1年で時効消滅し、運送人に悪意がある場合には適用されず、5年の時効消滅とされていました。改正後は運送人の主観を問わない除斥期間として規定されています。

5 不法行為責任

 運送品の滅失、損傷、延着の場合、運送契約上の債務不履行責任だけではなく、不法行為責任も成り立つ場合が多くあります。この場合、両方とも請求し得るとすると、不法行為責任に、商法で規定する運送契約の規律が及ぶかどうかという問題が生じ、色々な解釈がされてきました。
 しかし、商法改正で、商法上明記されることにより、一定の解決が図られました。
 運送人の賠償額の定額化(商法576条)、高価品の特則(商法577条)、運送人の責任消滅(商法584条)、除斥期間等(商法585条)は、不法行為による損害賠償に準用されます(商法587条本文)。
 ただし、荷受人があらかじめ荷送人の委託による運送を拒んでいたにもかかわらず荷送人から運送を引き受けた運送人の荷受人に対する責任については及ばないとされています(商法587条但し書)。
 また、商法587条により免責、または責任が軽減される場合、運送人の被用者の、荷送人又は荷受人に対する不法行為に基づく賠償責任も軽減されます(商法588条1項)。
 しかし、被用者に故意又は重過失が認められる場合には適用されません(商法588条2項)。

6 荷送人の危険物通知義務

 荷送人は、運送品が危険物である場合、引渡し前に、運送人に危険物の安全な運送に必要な情報を通知しなければなりません(商法572条)。
 荷送人が危険物通知義務に違反した場合は商法に規定がなく、民法の一般的な債務不履行規定によるとされています。

7 運送人の債権の消滅時効

 運送人の荷送人又は荷受人に対する債権(運送費請求権等)の消滅時効は1年となります(商法586条)。

1 旅客運送契約は、運送人が旅客を運送することを約し、相手方が運送費を払うことを約する契約です(商法589条)。

2 運送人は、旅客が運送のために受けた損害について賠償責任があります(商法590条本文)。ただし、運送人が運送に関し注意を怠らなかったことを証明した場合にはこの限りではないとされています(商法590条但し書)。

3 旅客の生命又は身体の侵害について、運送遅延によるものを除き、運送人の賠償責任を免除又は軽減する特約は無効とされています(商法591条1項)。

 運送遅延の場合については、しばしば発生し、その影響も様々であること、特約を認めないと、遅延の都度多数の旅客との間に大量に紛争が生じ、運送事業の運営を損ない、運賃の上昇を招きかねず旅客にとってもマイナス影響があるということで、除かれました。

 さらに、特約無効の例外として、次の2つの場合が規定されています(商法591条2項)。
① 大規模な火災、震災、その他の災害が発生し、又は発生するおそれがある場合において運送を行うとき
② 運送に通常生ずる振動その他の事情により生命又は身体に重大な危険が及ぶおそれがある者の運送を行うとき
これらは、天災の際の危険な状況下での輸送の必要性がある場合や、重病人の輸送において、リスクを抱えつつ輸送の必要性がある場合があり、これらの場合により、免責等を認めないと、運送の引き受け拒否が生じかねないという点にあります。

4 手荷物輸送

 運送人は、旅客から引渡しを受けた手荷物については、運送費を請求しないときであっても物品運送契約における運送人と同一の責任を負います(商法592条)。

 運送人は、旅客から引渡しを受けていない手荷物(身の回り品を含む。)の滅失損傷については、故意又は過失がある場合を除き、賠償責任を負いません(商法593条)。

5 運送人の債権の消滅時効

 運送人の債権(運賃請求権等)は、1年の消滅時効にかかります(商法594条、586条)。